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宇都宮の街というのは冬になると少しばかり冷たい風が街路樹を揺らし、歩く人の首元にさりげなく忍び寄ってくる。池上町あたりを歩いていると、そんな風の悪戯に思わず襟を立てたくなる日がある。僕がその日、立川マシマシ宇都宮店に向かったのは、ただ温かい食事を求めていたからではない。どちらかというと、胸のどこか深い場所で「すごい味噌ラーメン」という名前が、しつこいほどに反響していたからだ。「すごい」。この形容詞には人を無闇に期待させる危うさと、期待を超える可能性の両方が潜んでいる。だが店の前に立った瞬間、その期待を抱くこと自体がもう儀式なのだと悟った。扉を押し開けると豚骨の濃厚な香りが、胸の奥まで届くようにゆっくりと染み込んでくる。入口で食券を買う。件の「すごい味噌ラーメン(1,200円」と「魚粉(120円)」を購入し、奥のカウンターに案内された。食券機の向かいに相性抜群の黒ウーロン茶の自販機も完備。半ば反射的に購入してしまう。上手い配置だ。お好みのオーダーは麺200g、ヤサイ普通、脂マシマシ、ニンニク抜き、辛さはお好みでオーダーできるMAXの5をお願いした。辛さMAXという響きは、どことなく“自分の限界に触れてみたい時期の若者”が選ぶような、挑発めいた雰囲気をまとっている。だがこの日は妙にその挑戦がしっくりきた。ほどなくしてカウンター席の向かいにドンと置かれた丼を見た瞬間、思わず息を呑んだ。視界いっぱいに広がるモヤシの山。山というより、押し固められた地層。箸を入れると、ギシギシと音がしそうなほどの密度でモヤシが詰まり、スープの気配をなかなか感じさせてくれない。それでもその下には、濃厚で、情熱的ですらある味噌スープが、静かに湯気を立てて待ち構えている。脂マシマシの注文は、視覚的にも存在感を主張していた。表面に揺れる脂の粒は、まるで冬の街に灯るイルミネーションのようにきらめいている。こってりしているはずなのに、そのきらめきにはどこか透きとおった清潔感のようなものがあった。たぶん、それはスープがただ重たいだけではなく、深いコクと軽やかさを同時に備えているからだ。レンゲを差し込み、初めの一口をすくった瞬間、ほんの少し覚悟した。「すごい味噌」という名前は、虚構でも誇張でもなく、ただ事実としての“すごさ”を伝えようとしているのではないかと。そして口に含んだ瞬間、その予感は確信へと変わった。唐辛子の刺激が、舌先から喉へとまっすぐに駆け抜ける。辛さ5の威力は、遠慮という言葉を知らない。ただしそれは、暴力的な辛さではなく、辛いものが好きな人の心を正確に射抜く、計算された刺激だ。強烈でありながら、無骨ではない。味噌の丸い旨味と脂の甘みが、その強さを包み込んで調和させているのだろう。ふと気づくと、額にじんわり汗が滲んでいた。冬の冷たい風に吹かれた直後の身体が、今はまるでサウナの中にいるように熱く変化してゆく。そのギャップが心地よかった。モヤシをかき分けていくと、太麺が姿を現した。まるで短い旅を終えた船のような、堂々とした存在感。噛むと、もちりとした反発があり、スープの辛味と濃度をしっかりと絡め取ってくる。噛むたびに、体温がさらに上がる。そして気づけば、半分以上の山を崩していた。見た目のボリュームに気圧されそうになったが、不思議なことに食べ進めるほどに“まだ行ける”という感覚が湧いてくる。たぶんそれは、味の深さと辛さの高揚感が、どこかランナーのセカンドウィンドのように、もうひと踏ん張りを後押ししてくれるからだ。脂マシマシにしたことで、スープには甘いコクが広がり、辛さ5の強烈さを上手く中和しながら、奥行きのある濃厚な世界を作り出している。ニンニクを抜いた判断も、このバランスの良さに一役買っているのかもしれない。ニンニクのパンチがない分、味噌と脂、そして唐辛子の関係性がよりクリアに感じられる。気づけば、丼の底が見え始めていた。普通の味噌ラーメンなら途中で満腹の壁が見えてくるが、この“すごい味噌ラーメン”にはその壁がなかった。むしろ、もう少しこの物語の続きを味わっていたい、そんな余韻が残った。食べ終えたあと、店を出た瞬間に感じた冬の空気は、来たときよりもずっと優しかった。身体の内側が、熱と満足で満たされていたせいだろう。風の冷たさすら、どこか心地よい。「すごい」という言葉は、しばしば安直に使われる。しかし、ここの味噌ラーメンに関しては、むしろ控えめですらある。期待を軽々と超えていくその味は、単なるラーメンを超え、ひとつの“体験”として記憶に刻まれる。宇都宮の冬の日に、立川マシマシで迎えた熱い午後。それは、僕の胃袋だけでなく、心の奥のどこかまで温めてくれた。
「すごい」。
この形容詞には人を無闇に期待させる危うさと、期待を超える可能性の両方が潜んでいる。だが店の前に立った瞬間、その期待を抱くこと自体がもう儀式なのだと悟った。扉を押し開けると豚骨の濃厚な香りが、胸の奥まで届くようにゆっくりと染み込んでくる。
入口で食券を買う。件の「すごい味噌ラーメン(1,200円」と「魚粉(120円)」を購入し、奥のカウンターに案内された。食券機の向かいに相性抜群の黒ウーロン茶の自販機も完備。半ば反射的に購入してしまう。上手い配置だ。
お好みのオーダーは麺200g、ヤサイ普通、脂マシマシ、ニンニク抜き、辛さはお好みでオーダーできるMAXの5をお願いした。
辛さMAXという響きは、どことなく“自分の限界に触れてみたい時期の若者”が選ぶような、挑発めいた雰囲気をまとっている。だがこの日は妙にその挑戦がしっくりきた。
ほどなくしてカウンター席の向かいにドンと置かれた丼を見た瞬間、思わず息を呑んだ。
視界いっぱいに広がるモヤシの山。山というより、押し固められた地層。
箸を入れると、ギシギシと音がしそうなほどの密度でモヤシが詰まり、スープの気配をなかなか感じさせてくれない。それでもその下には、濃厚で、情熱的ですらある味噌スープが、静かに湯気を立てて待ち構えている。
脂マシマシの注文は、視覚的にも存在感を主張していた。
表面に揺れる脂の粒は、まるで冬の街に灯るイルミネーションのようにきらめいている。こってりしているはずなのに、そのきらめきにはどこか透きとおった清潔感のようなものがあった。たぶん、それはスープがただ重たいだけではなく、深いコクと軽やかさを同時に備えているからだ。
レンゲを差し込み、初めの一口をすくった瞬間、ほんの少し覚悟した。「すごい味噌」という名前は、虚構でも誇張でもなく、ただ事実としての“すごさ”を伝えようとしているのではないかと。
そして口に含んだ瞬間、その予感は確信へと変わった。唐辛子の刺激が、舌先から喉へとまっすぐに駆け抜ける。辛さ5の威力は、遠慮という言葉を知らない。
ただしそれは、暴力的な辛さではなく、辛いものが好きな人の心を正確に射抜く、計算された刺激だ。強烈でありながら、無骨ではない。味噌の丸い旨味と脂の甘みが、その強さを包み込んで調和させているのだろう。
ふと気づくと、額にじんわり汗が滲んでいた。
冬の冷たい風に吹かれた直後の身体が、今はまるでサウナの中にいるように熱く変化してゆく。そのギャップが心地よかった。
モヤシをかき分けていくと、太麺が姿を現した。まるで短い旅を終えた船のような、堂々とした存在感。噛むと、もちりとした反発があり、スープの辛味と濃度をしっかりと絡め取ってくる。噛むたびに、体温がさらに上がる。
そして気づけば、半分以上の山を崩していた。見た目のボリュームに気圧されそうになったが、不思議なことに食べ進めるほどに“まだ行ける”という感覚が湧いてくる。たぶんそれは、味の深さと辛さの高揚感が、どこかランナーのセカンドウィンドのように、もうひと踏ん張りを後押ししてくれるからだ。
脂マシマシにしたことで、スープには甘いコクが広がり、辛さ5の強烈さを上手く中和しながら、奥行きのある濃厚な世界を作り出している。ニンニクを抜いた判断も、このバランスの良さに一役買っているのかもしれない。ニンニクのパンチがない分、味噌と脂、そして唐辛子の関係性がよりクリアに感じられる。
気づけば、丼の底が見え始めていた。普通の味噌ラーメンなら途中で満腹の壁が見えてくるが、この“すごい味噌ラーメン”にはその壁がなかった。むしろ、もう少しこの物語の続きを味わっていたい、そんな余韻が残った。
食べ終えたあと、店を出た瞬間に感じた冬の空気は、来たときよりもずっと優しかった。身体の内側が、熱と満足で満たされていたせいだろう。風の冷たさすら、どこか心地よい。
「すごい」という言葉は、しばしば安直に使われる。しかし、ここの味噌ラーメンに関しては、むしろ控えめですらある。期待を軽々と超えていくその味は、単なるラーメンを超え、ひとつの“体験”として記憶に刻まれる。
宇都宮の冬の日に、立川マシマシで迎えた熱い午後。
それは、僕の胃袋だけでなく、心の奥のどこかまで温めてくれた。