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「奥出雲 (黒醤油) ¥850」@波と雲の写真平日 曇天 11:10 先待ち2名 後待ち1名 後客3名

〝ニューオープン 探検記〟

眠らない街と呼ばれる新宿歌舞伎町の中にあって眠られる場所、それが「テルマー湯」なのだ。

昨夜はそちらに前泊してからの新店舗めぐりを思い立った。早朝からサウナで体調を万全にして向かったのが、RDB内でも話題となっているコチラだ。ここのオープンを知ったのは早い段階だったのだが、海外遠征などで時間をとられている間に先送りになってしまったのだ。そこで本日は11時半開店前の現着を目指して、11時前には歌舞伎町のサウナを出発した。

新宿駅まで歩いてしまえば、総武線で5分もかからず最寄りの東中野駅に着いてしまった。店へは東口から向かったのだが、抜け道の階段を知らずにガード下を大きく遠回りするという大失態を演じながら、なんとか店先にたどり着いた。

店は地下一階との事だが、一階部分にはセンスの良い立て看板が置かれてある。その場での待機かと思ったが、ひとまずは店の存在を確認しようと地下階へと降りて行った。すると定刻 20分前でもすでに並びが発生しており、慌てて待機イスの三番手をキープした。雑居ビルの怪しげなエレベーターホールに置かれたイスに座って待つのだが、軽快なジャズが流れているので陰湿な雰囲気が和らげられている。

階段の途中には八番目以降の整理券配布の案内などが書かれてあるので、この並びが最後尾なのかも定かでないまま時が過ぎていった。すると定刻よりも10分も早開けとなり、小さな看板が扉に掛けられた。本日は整理券は配られていなかったようで、無事に三番手にて入店となった。

店内に入ると当然ながら券売機は設置されておらず、噂どおりの間借り営業である。木製盆がセットされたコの字カウンターに整列順に座っていくと、卓上メニューの中から本日のお題を品定めする。絞り込まれた二種類のメニューは、出雲産の黒醤油と三河産の白醤油の構成となっている。

この「黒と白」の組み合わせを見た時に「波と雲」という不思議な店名とが、私の中で少しずつ繋がりはじめていた。

ワンオペの店主さんが食前茶のハーブティーを配ってくれたタイミングで、標題の〝黒出雲〟をお願いした。間借り営業なので設備の問題と思われるが、トッピングなどのメニューがないのが現時点では寂しく思われる。サービスのハーブティーのカルダモンが生み出す爽快感が食欲を刺激するが、食後にも味わってみたいと少し残しておいた。それくらいに品質の良いフレーバーが香るハーブを使われていた。

専用の茹で麺機もないので、中型の寸胴鍋をテボを入れて代用している。調理を進める店主さんの動きに目を凝らして待っていると、着席して8分の第2ロットで我が杯が到着した。

その姿は白磁のスタイリッシュな切立丼の中で、シンプルながらも視覚だけで美味いのが伝わってくるような景色を見せていた。純度の高いクリアなスープと、その中に見え隠れする麺のバランスが完璧すぎて見惚れてしまった。初見での直感としては、かなり久しぶりの衝撃である。過剰なインパクトを加えなくても、人の心に訴えてくる表情があるものだ。そう思うと、居ても立ってもいられずにレンゲを手に取っていた。

まずは代赭色のスープをひとくち。表層に浮かんだ香味油が薄暗い店内でもダウンライトの光を跳ね返し、ランダムな粒子がキラキラと輝いている。丁寧な仕事からしか生み出されないスープの透明感が、出汁にこだわる店主さんの写し鏡のように見える。目の前に現れただけでは香りの面では強く主張してくるものはなく、穏やかな印象のままにレンゲを沈めてみた。やや多めに見える香味油だが、軽やかな油膜が崩れてレンゲの中に注がれてきた。その瞬間にフワッと香る魚介由来の香りが、優しく嗅覚をくすぐった。スープを口に含む前に香りだけで、確信めいた事があった。その事が私の気持ちを最大限に昂らせて、思わずスープを口にしていた。

「これだ、私の中で繋がりかけていたものが全てリンクした」

店主さんの修行先は非公表のようだが、ある店で間違いないという確信に変わった。動物系出汁と魚介出汁が究極のバランスを保ち、椎茸や海老などの乾物の旨みと香りも取り入れてある。10層天然だしのフレーズが大げさではなく、それ以上の深みに感じるような相乗効果を生んでいる。私の体内に点滴のように沁み渡るスープは、麺や具材への期待をも膨らませる。思わず飲み干してしまいそうな勢いを押し殺して、麺を味わうためにレンゲを箸に持ち替えた。

麺上げまで85秒ほどの麺にも、店主さんは細心の注意を払われていた。それはテボの中に投入した麺を、常に対流させるように菜箸でかき混ぜていた。しかも麺肌に傷を付けないように、すごく丁寧に扱われていたのが印象的だった。自家製麺ではないようだが、そんな麺に対する愛情を感じる中細ストレート麺を持ち上げてみた。28センチ程度に切り出しされた長めの形状で、切刃のエッジが残ったシャープな麺質だ。箸先にはそれほどの荷重が伝わってこないので、軽めの低加水麺を想像しながら一気にすすり上げてみた。すると長さがありながらも香味油が潤滑油となって、ひとすすりで滑り込んできた。滑らかな麺肌ではないが、スープをしっかり捉えてくるのでスープと麺の組み合わせも絶妙である。ここでも麺の目利きのセンスの良さを見せつけられた。舌触りは低加水麺だが、しっかりとした歯応えも持ち合わせた麺に箸が止まる事はなかった。

具材のチャーシューには、豚肉ではなく鶏ムネ肉が採用されていた。いずれ間借りではなく一国一城の主となった時にはスチコンを導入して、修行先で培った広東式叉焼をお披露目してくれるのだろう。現在の鶏ムネチャーシューにも中華香辛料をほのかに香らせてあり、まだ見ぬ将来への布石にも受けとれるチャーシューとなっている。厚切りにカットされてあるので歯応えも良く、淡白な鶏ムネ肉を味わい深いものにしている。

太メンマにもこだわりが見られ、発酵食品特有の香りと煮汁の旨みが重なったラーメンに良く合う仕上がりとなっている。柔らか仕立てではあるが麻竹の繊維の一本一本が解ける食感は、大げさではなくフカヒレの繊維質と酷似している。

薬味の九条ねぎは品質の良さばかりに頼る事なく、切り置き時間の短かさが鮮度の良さにもこだわっている。その事が九条ねぎ本来の爽やかな香りを引き出し、軽快な舌触りも生み出している。あえて高級葱を謳ってないあたりも商いのセンスの良さを感じてしまう。

序盤からノンストップで食べ進み、気がつけば最後まで熱々のスープを飲み干して器の底が見えていた。初見では器の形状からスープが少ないかもと思っていたが、丼底が広かったので量的にも大満足だった。

人生の中で〝センス〟と〝努力〟について考える時がある。決して努力が無駄になると思いはしないが、生まれ持ったセンスのある人が努力を重ねると、敵いようがない次元に行ってしまう。きっとこちらの店主さんは、その一人と思われる。味の決め方は勿論だが、器選びやネーミングセンス、接客の柔らかさに至るまで全てがセンスに溢れていると感じた。

久しぶりにレビューを書く手も、ノンストップで止まる事なく書き終えた。本来ならば更に高得点を付けたいのだが、それには自分なりの言い訳がある。今回の間借り営業を経て店主さんが新店舗を構えた時に、好物の味玉や別タイプの焼豚が登場すると思うと100点では足りないのではないかと思ってしまうからだ。それくらいに衝撃的なデビューを果たしてくれたラーメンに、心からの感謝を伝えたくなる一杯でした。

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コメント

今回はサウナーでもなく、キャバレポもない濃厚シンプルなレビューを初めてみたわ〜!
「波と雲」ネーミングもよく、「奥出雲(黒醤油)」「奥三河(白醤油)」の王道に酔いしれましたね!
配点もよく、らしくない「人生の中で...」と人生を語りだしましたか!これは参った!

虚無 Becky! | 2019年11月14日 02:27

多分ですが私の一番好きな店と味の組み立てが似ていたので、そこの出身ではないかと。なので興奮してしまい勝手に人生を語ってしまってすみません。

のらのら | 2019年11月14日 14:43